神様と参拝される方との間を取り持つ「仲執なかと（仲執）り持ち」としての役割を常に意識しています。また私たち神職は、神様に対して失礼のないようけしてお尻を向けません。履はき物もの（履物）を脱ぐとき、体の向きを変えるときなど、一つひとつの動作に気をつけています。

神様に奏そう上じょう（奏上）する「祝のり詞と（祝詞）」です。「かけまくも畏かしこ（畏）き〜」（おそれ多くも尊とうと（尊）い ）で始まり、神しん徳とく（神徳）をたたえ、これまでの感謝を述べ、参拝者の住所氏名とともに願いごとを申し上げて、最後は「恐かしこ（恐）み恐かしこ（恐）みももうす」（謹つつし（謹）んで申し上げます）で結びます。祝のり詞と（祝詞）には定型文がありますが、神職が作文することも少なくありません。微び音おん（微音）で心を込めて奏そう上じょう（奏上）することが基本です。

願いごとがあるときや、そのお礼参りに、また日々の生活や人生のさまざまな節目にご参拝ください。大きな神社から小さな祠ほこら（祠）まで、津つ々つ浦うら々うら（津々浦々）に神社がある風景は日本ならではのものです。科学文明が発達した現代でも、神社は日本人の心の文化と暮らしに深く関わっているのです。

願いごとをするときは、まず神様への感謝を伝え、自分も最大限の努力をすることお誓いしましょう。その上で、神様はあなたをお守りくださいます。人生における幸・不幸、運・不運は、その人の受け取り方次第です。神社に足を運ぶことで、人生を前向きに生きる心の持ちようも知っていただければと思います。

尾山神社は、加か賀が藩はん（加賀藩）の最初の殿様である前田利家公と、利家公の正せい室しつ（正室）（奥様）であるお松の方を主しゅ祭さい神じん（主祭神）としておまつりしています。武将の御ご祭さい神じん（御祭神）ですから、「文武両道」「必勝」のご利益があると言われています。またご夫婦でおまつりしていますので、「夫婦円満」「子宝安産」を祈願される方もいらっしゃいます。

年間約90の祭礼があります。代表的なものは4月の「春しゅん季き祭さい（春季祭）」「例れい祭さい（例祭）」、6月の「百万石まつり祈き願がん祭さい（祈願祭）」「封ほう国こく祭さい（封国祭）」「封ほう国こく後ご日にち祭さい（封国後日祭）」、10月の「秋しゅう季き祭さい（秋季祭）」です。
もっとも有名なのは百万石まつりです。利家公の御ご分ぶん霊れい（御分霊）をお乗せした尾山神社御ご鳳ほう輦れん（御鳳輦）とともに、俳優さん扮する利家公とお松の方、そして武者行列や加か賀が鳶とび（加賀鳶）などが「百万石行列」として市中を歩きます。

一般公開はしていませんが、利家公が戦で使用した鎧よろい（鎧）、兜かぶと（兜）、刀とう剣けん（刀剣）などの武具や、直筆の短たん冊ざく（短冊）、15代藩はん主しゅ（藩主）利とし嗣つぐ（利嗣）公が奉ほう納のう（奉納）された能面など前田家ゆかりの宝物があります。
前田家の歴代藩はん主しゅ（藩主）は能の愛好家として知られています。5代綱つな紀のり（綱紀）公の時代に金こん春ぱる（金春）流から宝ほう生しゅう（宝生）流に改流し、その後「加か賀が宝ほう生しゅう（加賀宝生）」として庶民にも広く普及しました。金沢の伝統芸能である加か賀が宝ほう生しゅう（加賀宝生）は、前田家ゆかりの市民の宝だと言えます。

「金かな谷や神じん社じゃ（金谷神社）」といい、尾山神社の摂せっ社しゃ（摂社）です。摂せっ社しゃ（摂社）とは、神社の主しゅ祭さい神じん（主祭神）とゆかりの深い神様をおまつりする小さな神社のことです。金かな谷や神じん社じゃ（金谷神社）では、前田家2代以降の藩はん主しゅ（藩主）・当とう主しゅ（当主）とその奥方をおまつりしています。

前田家の威い光こう（威光）を象徴するような建築物をつくろう、という人々の意気込みの表れだと思います。伝統を守りつつも、新しいものを柔軟に取り入れていく金沢人の気き風ふう（気風）や美意識は、この頃からあったのですね。
とはいえ和わ漢かん洋よう（和漢洋）の3様式を取り入れた斬新なデザインですから、反対意見も出たとの記録が残っています。しかし現在、神しん門もん（神門）は国の重要文化財に指定され、金沢のシンボルのひとつとなっていますから、当時の人々の決断は大正解だったと言えるでしょう。

「東ひがし神しん門もん（東神門）」と呼ばれ、金沢城の二の丸御ご殿てん（御殿）にあった唐から門もん（唐門）を1963（昭和38）年に移築したものです。総ケヤキ造りで釘くぎ（釘）は1本も使わず、屋根は瓦と銅板でふいています。金沢城は江戸、明治の火事でことごとく焼失しましたから、とても貴重な建造物です。唐から門もん（唐門）が幾多の火災をくぐり抜けてきたのには、門に彫られている2匹の龍が水を呼んだからという言い伝えがあります。

尾山神社は加か賀が藩はん主しゅ（加賀藩主）の別邸・金かな谷や御ご殿てん（金谷御殿）があった場所に建っています。庭園（神しん苑えん（神苑））も金かな谷や御ご殿てん（金谷御殿）の一部で、江戸時代後期から明治初期にかけて形づくられた池泉ちせん回遊かいゆう式しき（池泉回遊式）の美しい庭です。
この庭が楽器の庭と呼ばれるのは、「鳳ほう笙しょう島じま（鳳笙島）」「琵び琶わ島じま（琵琶島）」「鳥とり兜かぶと島じま（鳥兜島）」「琴こと橋はし（琴橋）」というように、池に浮かぶ島や橋などに、雅が楽がく（雅楽）にちなんだ名前がつけられているからです。ちなみに鳳ほう笙しょう（鳳笙）と琵び琶わ（琵琶）は楽器、鳥とり兜かぶと（鳥兜）は頭にかぶるものです。

3000年に1度しか咲かないと言われる伝説の花「優う曇どん華げ（優曇華）」が岩いわ絵え具のぐ（岩絵具）で描かれています。こちらは金かな谷や御ご殿てん（金谷御殿）から移築したもので、尾山神社の見どころのひとつです。

あります。代表的なものを紹介しましょう。
神社が所蔵する「淡吹の面」と呼ばれる能面には、少し怖い逸話があります。この鬼気迫る悪あく尉じょう（悪尉）面（※）は、3代利とし常つね（利常）公の頃に漁師が海から引き上げたもので、謡うたい（謡）をうたい、口から沫あわ（沫）を吹くなど不思議なことが続いたので前田家に献けん上じょう（献上）し、その後前田家でも異変が次々起こったので尾山神社へ奉ほう納のう（奉納）したと伝えられます。神社でもこの面を外へ出すと「一天てん（天）俄にわ（俄か）かにかき曇くも（曇）る」とされ、門外不出となっています。
※悪あく尉じょう（悪尉）面は能面の種類のひとつで、強く恐ろしい表情をした老人の面。

織田信長公に仕つか（仕）えて戦国の世を駆け抜けた武将です。「槍やり（槍）の又また左ざ（又左）」と呼ばれ、三さん間けん半はん（三間半）（6.3m）の長なが槍やり（長槍）を手に戦で活躍する一方、そろばんを愛用して算術も得意でした。信長公亡き後は、豊臣秀吉公の天下統一を助け、加賀百万石の礎いしずえ（礎）を築く大名となりました。
加か賀が藩はん（加賀藩）の藩はん主しゅ（藩主）となってからは文化芸能の発展に力を入れます。利家自身、能の愛好家であるとともに、秀吉公が開いた北野きたの大だい茶会さのえ（北野大茶会）で秀吉公の右座に座ったほどの茶人として知られています。

「勇ゆう将しょう（勇将）の陰に賢けん妻さい（賢妻）あり」の言葉がぴったりです。利家公は「賤しずケが岳たけ（賤ケ岳）の戦い」「末すえ森もり城じょう（末森城）の戦い」と2度の天下とりの戦いに巻き込まれましたが、いずれの合戦でもお松の方が重要な役回りを演じています。特に越中から佐さっ々さ成なり政まさ（佐々成政）が攻め込んできた末すえ森もり城じょう（末森城）の戦いでは、蓄財に努めていた利家に対し、「家臣ではなく、金銀を召し連れて槍やり（槍）を持たせ突かせたら」と皮肉って叱しっ咤た（叱咤）したというエピソードが有名です。
利家公の死後は幕府と前田家の融ゆう和わ（融和）のため自ら進んで人質となり、江戸で14年の長い人質生活を送りました。その行動が結果として前田家の存続と繁栄につながったとされます。

「母ほ衣ろ（母衣）」と呼ばれる袋状のもので、馬で駆けると風で膨らみます。武将が鎧よろい（鎧）の背に付ける飾りであり、流れ矢を防ぐための武具としての役割もありました。
像ではわかりませんが、本来は赤色です。織田信長公には、赤と黒に染め分けた母ほ衣ろ（母衣）を背負った赤あか母ほ衣ろ衆しゅう（赤母衣衆）、黒くろ母ほ衣ろ衆しゅう（黒母衣衆）と呼ばれる親衛隊がいましたが、利家公は赤あか母ほ衣ろ衆しゅう（赤母衣衆）の筆頭として活躍していました。

利家公が末すえ森もり城じょう（末森城）の戦いで着用したとされる全身金箔押しの甲かっ冑ちゅう（甲冑）のうち、兜かぶと（兜）のみ複製したものです。甲かっ冑ちゅう（甲冑）の正式名称は「 金きん 小こ 札ざね 白しろ 糸いと 素す 懸がけ 威おどし 胴どう 丸まるの 具ぐ 足そく （金小札白糸素懸威胴丸具足）」といい、実物は前田家が所蔵しています。